「これ、何のためにやっているんだろう」
平日の昼下がり、学校の会議室でベルマークを一枚ずつ切り、台紙に貼りながら、そう思ったことはありませんか。仕事を半休にして、下の子を預けて、集まった大人が数時間かけて作業をして、集まる金額は数千円。
1. まず、無駄だと感じるのは、あなたのせいではありません
PTAの話し合いがうまくいかないとき、それは誰か特定の人が悪いからではありません。いま、どの学校でも同じ4つの構造的な難しさが重なっています。
① 時間がいちばんない時期に、当番が回ってくる
共働きが当たり前になり、子育て期は人生でもっとも時間に余裕のない時期になりました。その真っただ中に役員が回ってくる。「協力したくない」のではなく「今は無理」という人が大半です。
② 「任意」のはずなのに、強制感がある
PTAは本来、入るも入らないも自由な任意団体です。ところが実際には自動加入やくじ引き、免除の理由をみんなの前で説明させる慣行が残る学校もあり、建て付けと実態のずれが不信感を生んでいます。
③ やめる理由より、続ける理由が通ってしまう
「先輩たちが続けてきた活動を、自分の代でやめられない」。前例踏襲には強い心理的な引力があります。活動は増える一方で、減りません。
④ 「廃止か存続か」の二択が、対話を止める
ニュースやSNSでは廃止論と擁護論がぶつかりがちです。でも実際の学校に必要なのは、勝ち負けではなく「うちの学校では何を大切にしたいか」を落ち着いて整理する場です。
つまり、無駄は個人の怠慢からではなく、仕組みから生まれています。だからこそ、仕組みを変えれば減らせます。
2. 「無駄」の正体は、3種類ある
ひとくちに無駄と言っても、中身は違います。混ぜて議論すると必ず紛糾するので、まず分けましょう。
種類A:誰のためか、誰も答えられない活動
ベルマーク集計、紙の広報誌、形骸化した総会、動員型の講演会。「今年やらなかったら、具体的に誰がどう困りますか?」と聞いて、誰も答えられない活動です。廃止した学校の多くが「思ったより困らなかった」と報告しているのは、この種類です。
種類B:必要だけど、やり方が古い活動
連絡のプリント配布、手作業の会計、平日昼の集合。必要なのは活動ではなく、やり方の更新です。連絡アプリやオンライン申込、クラウド会計に置き換えれば、負担だけが消えます。
種類C:必要で、しかも誰かがやらないといけない活動
登校見守り、緊急時の連絡網。これを「無駄」の袋に入れてしまうと、あとで事故として跳ね返ってきます。この種類はやめるのではなく、担い手を変える(外部委託・シルバー人材センター・行政移管)のが正解です。
3. 実際に「やめられた」活動
全国の学校で、実際に廃止・休止された活動を挙げます。
- ベルマーク集計 ── コロナ禍で活動が止まったのを機に廃止した学校が急増。「学校への寄付を目的とするには非効率が過ぎる」という判断です。一方で、参加強制をやめて「やりたい人だけ」で交流の場として継続した学校もあります。どちらも正解です。
- 紙の広報誌 ── 学校ホームページと内容が重複しているケースが多く、デジタル配信に切り替え。
- バザー・資源回収 ── 準備の負担が大きく、集まる金額との釣り合いを検証したうえで廃止する学校が増加。
- 校庭の草取り ── コロナ禍を経てシルバー人材センターへの委託に切り替えた学校も。
- 平日昼の総会 ── 書面表決やオンラインに移行。
やめられなかった活動、やめて困った活動
逆に、慎重さが必要なものもあります。ある学校では、活動量を維持したまま完全ボランティア制に切り替えた結果、手が挙がらず執行役員に仕事が集中し、校庭開放や検定が直前中止になりました。やり方だけを変えて、活動量を減らさなかったことが原因です。
4. なぜ、無駄だと分かっていてもやめられないのか
ここが本丸です。ある学校では、ベルマークより効率的な代替案が提案されたにもかかわらず、「良き伝統をやめることにつながるのはまかりならん」「苦労することが美徳」「先輩方に合わせる顔がない」という理由で握りつぶされたという事例が報じられています。
つまり、やめられない理由は非効率さではなく、「やめること=過去の否定」に見えてしまうことです。長年その活動を支えてきた人にとって、廃止提案は自分の時間の否定に聞こえます。これは論理の問題ではなく、感情の問題です。
だから、正論だけでは動きません。「時給換算したら◯円ですよ」という指摘は、正しいけれど、相手を敵に回します。必要なのは、やめることを個人の責任にしない仕組みと、続けてきた人の時間を否定しない言い方です。
5. じゃあ、どうやめるのか(4ステップ)
ステップ1
数字を出す(感情論を、事実の話に変える)
まず、活動ごとの年間の作業時間を計算します。「1回の時間 × 1回の人数 × 年間回数」。これだけで、議論の温度が変わります。
「なんとなく大変」が「年間800時間、フルタイム換算で100日ぶんの仕事」という事実になったとき、はじめて全員が同じ問題を見られるようになります。
活動を入力するだけで年間の総時間を算出し、「全員均等」「手挙げ制」「申告制」の3つの分け方を比較できます。ベルマークだけを深掘りしたいときは、ベルマーク時給換算機で実質時給まで出せます。
ステップ2
棚卸しをする(「誰のため?」で仕分ける)
全活動を書き出し、1つずつ「この活動は誰のためか」を問います。すっと答えられたら残す側、誰も答えられなかったら「おやすみ候補」へ。このとき、いきなり「廃止」と言わないのがコツです。「今年はおやすみしてみる」なら、心理的な抵抗が激減します。
ステップ3
小さく試す(全部を一度に変えない)
いきなり制度を変えるのではなく、1回だけの小さなおためしから始めます。「運動会の手伝いを、当番割り当てではなく1回だけメール募集にしてみる」「見守りの希望調査を1回とってみる」。1回だけ・だめなら戻す・来月できる、この粒度が鉄則です。
ある学校では、この小さなおためしによって「役員は無理だが手伝いはできる」という、それまで見えていなかった層の存在が明らかになりました。
ステップ4
やめる前に、生んでいたものを言葉にする
これが、続けてきた人の納得を分ける決定的な一手です。廃止する前に、「この活動が生んでいた良いもの」を一度言葉にしてから手放す。すると、やめること=否定ではなくなります。
負担だけでなく、PTAが生んでいたものも一覧にしています。天秤には、両方を載せてください。
6. 順番を間違えないでください
最後に、いちばん大事なことを。改革には、正しい順番があります。
活動量を減らさないまま「できる人がやる」に変えると、いつもの数人に仕事が集中して潰れます。減らす前に「PTAは楽しいですよ」と宣伝を強化すると、期待して来た人が失望し、悪い評判が倍になって返ってきます。
まず減らす。次に、多く引き受けてくれた人が報われる仕組みをつくる。魅力を伝えるのは、いちばん最後です。
7. 話し合いの場が、いちばん難しい
ここまで読んで、こう思われたかもしれません。「理屈は分かった。でも、それをどうやってあの会議で提案するんだ」と。
そのとおりです。いちばん難しいのは、意見が割れるテーマを、関係を壊さずに話し合うこと。それには技術がいります。そして、その技術は誰も教わってきませんでした。
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無駄だと感じる気持ちは、正当です。その気持ちを、うまく話し合いのテーブルに載せられますように。