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キャリア理論図鑑A FIELD GUIDE TO CAREER THEORIES

「はたらく」の迷いには、先人が引いた地図がある。

どの道に進むべきか。いまの場所は正しいのか。降りてもいいのか。はたらくことの迷いは、いつの時代も人を立ち止まらせてきた。その一つひとつに、心理学者や社会学者が生涯をかけて向き合い、「キャリアという現象のしくみ」を理論の形に残してきた。

この図鑑は、そうして積み上げられたキャリア理論を21種おさめたもの。ひとつひとつに、確かめられ方(根拠)と、言い過ぎを戒める但し書きと、今日ためせる一手を添えた。正解は載っていない。だが、迷いを歩きやすくする地図は載っている。

理論は、あなたを型にはめる枠ではない。いまの自分を映して、次の一歩を照らす鏡である。
→ 対になる『みんなで作る 生涯キャリア図鑑』を読む
01

読む前に、3つの前提

キャリア理論を手に取る前に、この図鑑が置いている3つの立場。

「選ぶ」より「育てる」

キャリアは一度の正しい選択で決まるのではない。行動し、経験し、ふりかえる——その積み重ねの中で、少しずつ形づくられていくものである。

理論は地図であって、目的地ではない

どの理論も、複雑な現実の一面だけを照らす。万能の一冊はない。状況と問いに合わせて、地図を持ち替えながら歩く。

上るだけが道ではない

昇進や成長だけがキャリアではない。留まる・降りる・越える・編み直す——そのどれもが、等しく一つのキャリアである。

02

5つの系(けい)

21の理論を、扱う問いの近さで5つの系に分けた。色は、その理論が立つ「軸」を表している。

選択と適合

全5種

自分と仕事をどう重ねるか。特性・興味・価値の一致を問う理論。

発達と移行

全4種

生涯をかけた段階と、転機との向き合い方を問う理論。

学習と偶発

全4種

学びと偶然をどう味方につけ、不確実さの中で決めるか。

意味と物語

全4種

経験にどんな意味を与え、自分の物語として編むか。

関係と環境

全4種

人とのつながりや、境界を越える環境の中でキャリアを見る。

03

キャリア理論図鑑・全21種

番号は通し番号。順に読んでも、逆引きから引いても、色で絞ってもいい。

ふたつのパズルピースを重ね合わせる人のイラスト
No.001

特性因子理論

Trait-and-Factor Theory
選択と適合

ひとことで自分を知り、仕事を知り、その二つを重ねる。

どんな理論か
職業指導の祖パーソンズが示した最初の枠組み。①自分の適性・興味・限界を知り、②職業の条件・報酬・将来を知り、③両者を合理的に結びつける。キャリア選択を「マッチング」と捉える出発点。
確かめられ方
1909年の遺著『職業の選択』。以後の職業心理学(ウィリアムソンのミネソタ点検法など)が測定と面談として受け継ぎ、適性検査の理論的土台になった。
気をつけたいこと
人も仕事も固定した「点」ではなく、経験で変わる。合理的マッチングだけでは、偶然・感情・物語の力を取りこぼす。
使ってみる
「得意・好き・ゆずれない条件」を3つずつ書き出し、候補の仕事の実際の条件と一つずつ照合してみる。

出典:Parsons, F. (1909). Choosing a Vocation.

六角形のタイルの上に立ち、隣のタイルを見つめる人のイラスト
No.002

RIASEC・六角形モデル

Holland's Hexagonal Model
選択と適合

ひとことで人も職場も6つの色を持ち、色が近いほど居心地がいい。

どんな理論か
人と環境を現実的(R)・研究的(I)・芸術的(A)・社会的(S)・企業的(E)・慣習的(C)の6タイプで表し、両者の一致(congruence)が高いほど満足と定着が高まるとする。一貫性・分化度も見る。
確かめられ方
VPIやSDS(自己探索)などの検査で大量に測定され、米国の職業情報O*NETの分類にも採用。適合と満足・在職の相関は繰り返し確認されている。
気をつけたいこと
一致の効果量は中程度で、万能ではない。文化差や、時代とともに変わる職業像を六角形が固定してしまう危うさもある。
使ってみる
自分の上位2〜3タイプ(例:AとS)を出し、そのコードを持つ職業リストを眺めて、意外な選択肢を拾う。

出典:Holland, J. L. (1997). Making Vocational Choices (3rd ed.).

小舟の上で錨につながる綱を持つ人のイラスト
No.003

キャリア・アンカー

Career Anchors
選択と適合

ひとことで譲れないものが、あなたの錨(いかり)になる。

どんな理論か
選択を迫られたとき最後まで手放せない「価値・動機・能力」の組。専門/管理/自律/安定/起業家的創造/奉仕/純粋な挑戦/生活様式の8つ。錨は経験を通じて自覚され、簡単には変わらない。
確かめられ方
MITでの長期の追跡(パネル)調査から抽出。キャリア・アンカー・インタビューと自己診断が実務で広く使われている。
気をつけたいこと
錨は一つに絞れないことも多い。自己申告のため、憧れと実際の行動がずれることがある。8分類が万国共通とは限らない。
使ってみる
過去の転機で「これだけは譲れなかった」場面を3つ思い出し、共通する価値に名前をつける。

出典:Schein, E. H. (1978). Career Dynamics.

人と家が釣り合う天秤のイラスト
No.004

職業適応理論(TWA)

Theory of Work Adjustment
選択と適合

ひとことであなたが満足し、職場も満足して、はじめて長く続く。

どんな理論か
ミネソタ職業適応理論。個人の欲求と環境の報酬が合う「満足(satisfaction)」と、環境の要求に個人の能力が応える「充足(satisfactoriness)」の両方が揃うほど在職が続く、とする双方向モデル。
確かめられ方
ミネソタ職業欲求質問紙(MIQ)などで測定。満足・充足と離職の関係が実証研究で支持されてきた。
気をつけたいこと
「対応(correspondence)」を静的に見がち。人と職場は互いに歩み寄って変化する(適応の様式・柔軟性)視点を忘れない。
使ってみる
いまの仕事で「満たされている欲求」と「満たされていない欲求」を分け、環境に求める前に自分が動かせる部分を一つ選ぶ。

出典:Dawis, R. V. & Lofquist, L. H. (1984). A Psychological Theory of Work Adjustment.

広がる道の中で明るい一本に立つ人のイラスト
No.005

限界と妥協理論

Circumscription & Compromise
選択と適合

ひとことで夢は、知らぬ間に自分で狭めている。

どんな理論か
人は成長の過程で「自分らしくない」職業を早くから切り捨て(限界づけ)、最後に現実と折り合いをつける(妥協)。性役割→社会的地位→興味の順に譲り、興味は案外あとまで残る。
確かめられ方
子ども・青年の職業志望の発達研究に基づき1981年に提唱。志望が年齢とともに狭まる傾向が観察されている。
気をつけたいこと
「妥協」を後ろ向きに捉えすぎない。早期に切り捨てた選択肢を、大人になって取り戻せることもある。
使ってみる
子どもの頃「向いてない」と早々に諦めた仕事を一つ思い出し、いまの自分ならどう関われるか問い直す。

出典:Gottfredson, L. S. (1981). Circumscription and compromise. Journal of Counseling Psychology.

色の重なるアーチの下を歩く人のイラスト
No.006

ライフキャリア・レインボー

Life-Span, Life-Space
発達と移行

ひとことでキャリアとは、生涯にわたる役割の虹である。

どんな理論か
キャリアを一時点の選択でなく生涯発達として捉える。成長・探索・確立・維持・下降の段階と、子ども・学生・職業人・親・市民などの役割の重なり(ライフスペース)を虹で描く。核にあるのは「自己概念の実現」。
確かめられ方
長期の職業発達研究(Career Pattern Study)に基づき、段階は行きつ戻りつする「マキシ/ミニサイクル」として精緻化された。
気をつけたいこと
直線的な右肩上がりに読まれがち。実際は転職・育児・介護で何度も探索期に戻る。段階の年齢は目安にすぎない。
使ってみる
いま担う役割を紙に並べ、時間とエネルギーの配分を円グラフにして、5年後の理想と見比べる。

出典:Super, D. E. (1980). A life-span, life-space approach to career development.

4つの包みを前に旅支度を確かめる人のイラスト
No.007

転機との向き合い方(4S)

Transition & the 4S System
発達と移行

ひとことで転機と向き合う鍵は、4つの資源の点検にある。

どんな理論か
転機を「予期した/しなかった/期待が外れた」に分け、転機と向き合う力を Situation(状況)・Self(自分)・Support(支援)・Strategies(戦略)の4Sで点検する。何が起きたかより、手持ちの資源に注目する。
確かめられ方
成人のトランジション研究に基づき、キャリアカウンセリングの現場で4S点検が広く用いられている。
気をつけたいこと
「起きなかったこと(ノンイベント)」も転機になる。資源は固定でなく、支援は自分から作りにいける。
使ってみる
いまの転機を4Sで棚卸しし、4つのうち最も手薄な資源を一つ補強する行動を決める。

出典:Schlossberg, N. K. (1984). Counseling Adults in Transition.

橋の中ほどで立ち止まる人のイラスト
No.008

トランジション

Bridges' Transitions
発達と移行

ひとことで変化は出来事、移行は心の道のり。終わりから始まる。

どんな理論か
外的な「変化(change)」と内的な「移行(transition)」を区別する。移行は①何かの終わり→②どっちつかずのニュートラルゾーン→③新しい始まり、の順に進む。空白の中立圏こそ再生の時期とみる。
確かめられ方
組織変革や人生の節目の臨床・実務観察に基づくモデル。企業の変革マネジメントで広く参照される。
気をつけたいこと
中立圏を「無駄な停滞」と焦って飛ばすと、新しい始まりが根づかない。段階の速さは人それぞれ。
使ってみる
いまが3段階のどこかを見極め、中立圏なら「あえて決めない」時間を数週間、自分に許可する。

出典:Bridges, W. (1980). Transitions: Making Sense of Life's Changes.

色の変わるマントをまとう人のイラスト
No.009

プロティアン・キャリア

The Protean Career
発達と移行

ひとことでキャリアの主導権は、会社でなく自分が握る。

どんな理論か
変幻自在の神プロテウスにちなむ。組織の階段でなく、本人の価値観に導かれ(value-driven)、自分で舵を取る(self-directed)キャリア観。成功の基準を昇進でなく「心理的成功」に置く。
確かめられ方
「境界のないキャリア」論とともに1990年代以降実証が蓄積。プロティアン志向とキャリア満足・適応の正の関連が報告されている。
気をつけたいこと
「全部自己責任」と読むと危うい。自律は環境・支援があってこそ機能する。自分探しの空回りにも注意。
使ってみる
「自分にとっての成功」を昇給・肩書き以外の言葉で3つ定義し、直近の選択がそれに沿うか確かめる。

出典:Hall, D. T. (2004). The protean career: A quarter-century journey. Journal of Vocational Behavior.

開いた扉から舞い込む蝶と、机で顔を上げる人のイラスト
No.010

計画された偶発性

Planned Happenstance
学習と偶発

ひとことで良い偶然は、動いている人のところに起きる。

どんな理論か
キャリアの多くは予期せぬ出来事で決まる。ならば偶然を待つのでなく、好奇心・持続性・柔軟性・楽観性・冒険心の5つで「偶然を呼び込み、活かす」。計画通りより、計画された寄り道。
確かめられ方
成功者の多くが転機を「偶然」と語る調査知見が土台(Mitchell, Levin & Krumboltz, 1999)。社会的学習理論の発展形。
気をつけたいこと
「流れ任せでいい」ではない。偶然を活かすには日頃の行動量と準備が要る。運の格差(機会の不平等)も直視する。
使ってみる
今週、専門外の人に1人会う・未経験の会に1つ出るなど「偶然の入り口」を意図的に増やす。

出典:Mitchell, K. E., Levin, A. S. & Krumboltz, J. D. (1999). Planned happenstance. Journal of Counseling & Development.

旗へ続く踏み石の最初の一歩に立つ人のイラスト
No.011

社会的認知キャリア理論(SCCT)

Social Cognitive Career Theory
学習と偶発

ひとことで「できそう」と「その先の見通し」が、選択を動かす。

どんな理論か
バンデューラの社会的認知理論をキャリアに応用。自己効力感(できそう)・結果期待(やれば何が得られるか)・目標が、興味と選択と行動を形づくる。環境の後押しや障壁も組み込む。
確かめられ方
Lent, Brown & Hackett(1994)が体系化。自己効力感と興味・選択の関係は多数の研究でメタ分析的に支持されている。
気をつけたいこと
効力感は成功体験・代理体験・励まし・気分でつくれる=固定ではない。ただし自信過剰は準備不足を招くことも。
使ってみる
挑戦したい領域で「小さく成功できる課題」を用意し、達成→自信→挑戦の循環を意図的に回す。

出典:Lent, R. W., Brown, S. D. & Hackett, G. (1994). Toward a unifying social cognitive theory of career. Journal of Vocational Behavior.

踏み台の上に立ち、続く階段を見る人のイラスト
No.012

自己効力感

Self-Efficacy
学習と偶発

ひとことで「自分にはできる」という予感が、行動を生む。

どんな理論か
結果の価値でなく「その行動を自分は遂行できるか」という見込み。①達成体験②代理体験(モデル)③言語的説得④生理・情動状態の4つの源から育つ。キャリアの一歩を踏み出す原動力。
確かめられ方
Bandura(1977)以降、教育・健康・仕事で膨大な実証。効力感とパフォーマンス・粘りの関連は頑健。
気をつけたいこと
領域ごとに異なる(万能の自信ではない)。過大な効力感は油断に、過小は回避につながる。
使ってみる
尻込みする課題を「確実にできる大きさ」まで刻み、最初の成功を早くつくって効力感を仕込む。

出典:Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review.

ランタンを提げて霞の中を歩く人のイラスト
No.013

積極的不確実性

Positive Uncertainty
学習と偶発

ひとことで先が読めないからこそ、決めながら進む。

どんな理論か
かつて自ら唱えた合理的意思決定論を修正。情報が不完全な現実では、客観と直感、確実さと不確実さを共に抱え、柔軟に決め直す姿勢(positive uncertainty)が有効だとした。
確かめられ方
変化の激しい時代のキャリア意思決定論として提唱(Gelatt, 1989)。後の偶発性理論・カオス理論と響き合う。
気をつけたいこと
「決めない自由」を先延ばしの言い訳にしない。不確実性を積極的に使うには、仮の意思決定と検証がいる。
使ってみる
迷う選択を「仮決め」して一定期間試し、得た情報で見直す——決断を実験に変える。

出典:Gelatt, H. B. (1989). Positive uncertainty: A new decision-making framework. Journal of Counseling Psychology.

開いた本から立ちのぼる金の糸をなぞる人のイラスト
No.014

キャリア構築理論・アダプタビリティ

Career Construction
意味と物語

ひとことでキャリアは、自分の物語として編み直せる。

どんな理論か
客観的な経歴でなく、本人が経験に与える「意味」からキャリアを構築する。変化に適応する力を関心・統制・好奇心・自信の4C(Concern, Control, Curiosity, Confidence)で捉え、ライフテーマを物語として語り直す。
確かめられ方
スーパーの発達論を社会構成主義で刷新(Savickas, 2005)。キャリア・アダプタビリティ尺度(CAAS)が各国で検証されている。
気をつけたいこと
物語は「作り話」ではなく事実の意味づけ。都合よく書き換えるだけでは行動が伴わない。
使ってみる
「子どもの頃の憧れ/好きな言葉/繰り返す悩み」を語り、そこに通底するテーマに名前をつける。

出典:Savickas, M. L. (2005). The theory and practice of career construction. In Career Development and Counseling.

小さな灯を両手に持つ人のイラスト
No.015

天職(コーリング)

Calling & Vocation
意味と物語

ひとことで仕事は、稼ぎにも、経歴にも、使命にもなりうる。

どんな理論か
人の仕事観をジョブ(生計)・キャリア(昇進)・コーリング(社会的意義ある使命)に分ける見方を発展させ、召命感が満足やウェルビーイングを高めるとする。意味は「見つける」だけでなく「育てる」もの。
確かめられ方
Wrzesniewski et al.(1997)の3分類、Dik & Duffy(2009)のコーリング研究。召命感と仕事満足・人生満足の正の関連が報告されている。
気をつけたいこと
「天職幻想」は搾取や燃え尽きの温床にもなる(やりがい搾取)。使命感と労働条件は、別の問題として扱う。
使ってみる
いまの仕事が誰の何に役立っているかを具体的にたどり、意味の糸を一本、意識的に太くする。

出典:Dik, B. J. & Duffy, R. D. (2009). Calling and vocation at work. The Counseling Psychologist.

4色の布をキルトに縫い合わせる人のイラスト
No.016

統合的人生設計(ILP)

Integrative Life Planning
意味と物語

ひとことで仕事・愛・学び・余暇を、一枚のキルトに縫い合わせる。

どんな理論か
キャリアを人生全体・社会全体の文脈で捉える。なすべき仕事・自分と家族の世話・意味の探究・多様性との共生など、人生の重要課題(4L: Labor, Love, Learning, Leisure)を統合的に設計する。
確かめられ方
Hansen(1997)が提唱。ジェンダー・多文化・社会正義の視点をキャリア設計に組み込んだ点で影響を与えた。
気をつけたいこと
理想が大きく、実務に落としにくいという批判もある。全部を一度に整えようとせず、優先順位を持つ。
使ってみる
仕事・関係・学び・余暇の4領域に点数をつけ、いちばん痩せている領域に今月ひとつ栄養を与える。

出典:Hansen, L. S. (1997). Integrative Life Planning.

作業台で紙の形を自分の手で整える人のイラスト
No.017

ジョブ・クラフティング

Job Crafting
意味と物語

ひとことで与えられた仕事を、自分の手で作り変える。

どんな理論か
働き手は受け身でなく、仕事の①作業(タスク)②人間関係③意味の捉え方(認知)を主体的に編集し、やりがいと自分らしさを高められる、とする。同じ職務でも意味は自分で耕せる。
確かめられ方
Wrzesniewski & Dutton(2001)が概念化。クラフティングとワーク・エンゲージメント・満足の関連が実証的に支持されている。
気をつけたいこと
好きな部分だけ増やすと本務が痩せることも。上司・同僚との折り合いの中で行う「関係の中の工夫」。
使ってみる
担当業務のうち「意味を感じる作業」を一つ増やし、「削れる作業」を一つ手放す交渉をしてみる。

出典:Wrzesniewski, A. & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job. Academy of Management Review.

近くの太い糸と遠くへ伸びる細い糸のつながりのイラスト
No.018

弱い紐帯の強み

The Strength of Weak Ties
関係と環境

ひとことで新しい機会は、親友でなく「知り合い」から来る。

どんな理論か
転職者の多くが、頻繁に会う親密な人(強い紐帯)でなく、たまに会う程度の知人(弱い紐帯)から仕事の情報を得ていた。弱いつながりほど自分と違う世界に橋を架け、新しい情報をもたらす。
確かめられ方
Granovetter(1973)のボストン近郊の転職調査。人づてに職を得た人の多くが、接触頻度の低い相手からだった。
気をつけたいこと
弱い紐帯が万能ではない(信頼や推薦は強い紐帯が担うことも)。つながりの「量」より「多様性」が鍵。
使ってみる
半年以上連絡していない知人3人に、近況を一言添えて再連絡してみる。

出典:Granovetter, M. S. (1973). The strength of weak ties. American Journal of Sociology.

柵の切れ目から丘へ踏み出す人のイラスト
No.019

境界のないキャリア

The Boundaryless Career
関係と環境

ひとことでキャリアは、一つの会社の中だけにはもう収まらない。

どんな理論か
終身雇用の「組織内キャリア」に対し、組織・職種・地域の境界を越えて展開するキャリア観。雇用の安定でなく、持ち運べる能力・評判・人脈(キャリア資本)が拠り所になる。
確かめられ方
Arthur & Rousseau(1996)が提示。プロティアン論とともに、流動化する労働市場の実態研究を促した。
気をつけたいこと
「境界のない」自由の裏に不安定さがある。誰もが越境できるわけでなく、格差や自己責任論に転じやすい。
使ってみる
いまの会社を離れても通用する力・人脈・実績を棚卸しし、持ち運べる資本を一つ厚くする。

出典:Arthur, M. B. & Rousseau, D. M. (1996). The Boundaryless Career.

蝶の飛跡が大きくうねる金の糸を描くイラスト
No.020

キャリア・カオス理論

The Chaos Theory of Careers
関係と環境

ひとことで人生は複雑系。小さな偶然が、大きく効く。

どんな理論か
キャリアを、予測しきれない複雑で開かれた「システム」とみる。小さな出来事が思わぬ結果を生み(バタフライ効果)、人は特定のパターン(アトラクター)に引き寄せられる。不確実性を前提に設計する。
確かめられ方
Pryor & Bright(2003年以降)が複雑系科学をキャリア論に導入。偶発性理論群の一つとして発展している。
気をつけたいこと
「どうせ予測不能」と投げ出す口実にしない。制御できる部分と手放す部分を見分ける知恵が要る。
使ってみる
計画を「一本の正解」でなく複数のシナリオで持ち、想定外が来たら書き換える前提で動く。

出典:Pryor, R. G. L. & Bright, J. E. H. (2011). The Chaos Theory of Careers.

ベンチに並んで座る年長者と若手のイラスト
No.021

メンタリング理論

Mentoring at Work
関係と環境

ひとことで人は、導く人と支える人の両方に育てられる。

どんな理論か
メンターの働きを、昇進や可視性を助ける「キャリア的機能」と、受容・相談相手・ロールモデルとなる「心理社会的機能」に分けた。関係は開始→養成→分離→再定義の段階をたどり、やがて対等になる。
確かめられ方
Kram(1985)の縦断的インタビュー研究。以後、メンタリングと昇進・満足・定着の関連が多数実証された。
気をつけたいこと
一人の師に依存しすぎない。複数の支援者からなる「発達的ネットワーク(メンタリング・コンステレーション)」が現代的。
使ってみる
自分の「支援者マップ」を描き、足りない機能(挑戦をくれる人/受け止める人)を補う関係を一つ育てる。

出典:Kram, K. E. (1985). Mentoring at Work.

04

逆引き――こんなときは、この理論

キャリアの迷いから、手がかりになる理論を引く。まず一歩を、ここから。

こんなとき手がかりになる理論次の一歩
何をしたいのか、自分でも分からないRIASEC・特性因子・キャリア構築好き/得意/譲れないを言葉にし、経験に通底する物語のテーマを探す
いまの仕事を続けるか迷うキャリア・アンカー・職業適応・プロティアン譲れない価値を確かめ、「満足」と「充足」の両面で棚卸しする
転職・異動・転機で揺れている4S・トランジション・境界のないキャリア手持ちの資源(4S)を点検し、中立圏を焦らず、持ち運べる資本を厚くする
計画どおりにいかず不安計画された偶発性・積極的不確実性・カオス理論偶然の入り口を増やし、仮決めで動きながら見直す
最初の一歩が踏み出せない自己効力感・SCCT確実にできる大きさに刻み、小さな成功を先につくる
はたらく意味を見失った天職・ジョブ・クラフティング・統合的人生設計誰の役に立っているかをたどり、仕事を自分の手で編集する
人脈や情報が広がらない弱い紐帯・メンタリング疎遠な知人に再連絡し、支援者マップの穴を埋める
夢を諦めかけている限界と妥協理論・ライフキャリア・レインボー早々に切り捨てた選択肢を問い直し、役割の配分を見直す

理論は、当てはめるためでなく、動きだすためにある。

名前を覚えただけでは、キャリアは動かない。動くのは、実際に棚卸しし、誰かに語り、偶然に飛び込み、小さく試す——その一歩の中でだ。その一歩を支える場を、この工房はつくっています。

・本音で自分のキャリアを語り、ふりかえる場なら → デモクラシーフィットネス
・はたらく道の全体像を眺めるなら → みんなで作る 生涯キャリア図鑑
・自分の強みと非認知スキルを知るなら → 非認知スキル図鑑へ
参考にした主な理論家・文献(クリックで開く)

Parsons, F. (1909). Choosing a Vocation./ Holland, J. L. (1997). Making Vocational Choices (3rd ed.)./ Schein, E. H. (1978). Career Dynamics./ Dawis, R. V. & Lofquist, L. H. (1984). A Psychological Theory of Work Adjustment./ Gottfredson, L. S. (1981). Circumscription and compromise. Journal of Counseling Psychology./ Super, D. E. (1980). A life-span, life-space approach to career development. Journal of Vocational Behavior./ Schlossberg, N. K. (1984). Counseling Adults in Transition./ Bridges, W. (1980). Transitions./ Hall, D. T. (2004). The protean career: A quarter-century journey. Journal of Vocational Behavior./ Mitchell, K. E., Levin, A. S. & Krumboltz, J. D. (1999). Planned happenstance. Journal of Counseling & Development./ Lent, R. W., Brown, S. D. & Hackett, G. (1994). Toward a unifying social cognitive theory of career. Journal of Vocational Behavior./ Bandura, A. (1977). Self-efficacy. Psychological Review./ Gelatt, H. B. (1989). Positive uncertainty. Journal of Counseling Psychology./ Savickas, M. L. (2005). The theory and practice of career construction./ Wrzesniewski, A., McCauley, C., Rozin, P. & Schwartz, B. (1997). Jobs, careers, and callings. Journal of Research in Personality./ Dik, B. J. & Duffy, R. D. (2009). Calling and vocation at work. The Counseling Psychologist./ Hansen, L. S. (1997). Integrative Life Planning./ Wrzesniewski, A. & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job. Academy of Management Review./ Granovetter, M. S. (1973). The strength of weak ties. American Journal of Sociology./ Arthur, M. B. & Rousseau, D. M. (1996). The Boundaryless Career./ Pryor, R. G. L. & Bright, J. E. H. (2011). The Chaos Theory of Careers./ Kram, K. E. (1985). Mentoring at Work.

※各カードの記述は、上記の原著および標準的なキャリア論の教科書的整理に基づく要約です。年号は初出・代表的な版を示しています。