
世に出回る事例は、成功したものばかりです。沈んだ船は、航海術の本に載りません。だからわたしたちは、生き残った船だけを見て、航路を選んでしまいます。
この事例集は、成功と失敗を必ず併記します。よく似た二つの取り組みが、なぜ違う場所へたどり着いたのか。両者を分けた「分岐点」を特定し、そこで働いていた苦手と、効いていた知恵を図鑑へ逆引きします。
事例は、真似るためのものではありません。両方の航路を見て、分岐点で成功の側を選ぶ目を育てるためのものです。『ホモ・サピエンスの苦手図鑑』の「読む前の、三つの前提」と対になる、この事例集の編集方針です。
成功事例だけを集めた棚は、それ自体が一つのバイアスです。この事例集では、すべてのテーマで成功と失敗を併記します。どちらか片方しか見つからないテーマは、収蔵しません。
成功事例は、実名と出典を明記します。失敗事例は原則として、複数の実例から合成した「典型パターン」として匿名で描きます。例外は、公的な調査報告や広く報道され、すでに公知となっている失敗のみです。責めるためではなく、分岐点を学ぶための棚だからです。
失敗の原因を、個人の資質に求めません。そこで働いていたのは、たいてい『ホモ・サピエンスの苦手図鑑』に収蔵された仕様です。事例の末尾には必ず、働いていた苦手と、効いた知恵への逆引きをつけます。
出典の考え方は、当工房の事実の台帳と同じ方針です。実名で扱う事実には、確かめられる出典を添えます。
各事例のページは、次の四部構成で書かれています。
何が起きたか。成功の航路と失敗の航路を併記します。
両者の運命を分けた、具体的な判断・構造・タイミング。
そこで働いていた苦手(→苦手図鑑)と、効いた知恵(→知恵の図鑑たち)。
同じ分岐点に立つ人のための、次の一歩。
キャリア・暮らし・家族。打ち手を持つのは、自分自身。
会社・学校・チーム。打ち手を持つのは、経営・人事・現場。
地域・自治体・コミュニティ。打ち手を持つのは、そこに住む当事者。
焼印は「個・組・社」の三種。気になる分岐点から読んでください。
再開発した街と、アーケードだけ替えた街。よく似た二つの商店街の運命を分けたものは何だったのでしょうか。
行動が変わった研修と、感想文で終わった研修。同じ講師・同じ内容でも、結果は正反対になりえます。
降りて幸せになった人と、しがみついて消耗した人。分けたのは能力ではなく、評価軸の持ち方でした。
社員とつくった理念と、社員に配った理念。文面はよく似ていても、数年後の景色はまるで違います。
毎日問いかけた会社と、唱和で終わった会社。社員は掲示物と評価表が食い違うとき、評価表を信じます。
仕組みまで変えた会社と、言葉だけ替えた会社。風土は発表イベントの熱ではなく、意思決定の回路が変わったときに変わります。
対話とセットで変えた会社と、制度だけ差し替えた会社。分けたのは制度の様式ではなく、評価の目的の定義でした。
仕組みで橋を架けた会社と、交流イベントに頼った会社。壁の正体は性格ではなく、数万年ものの仕様でした。
対話の道具にした会社と、提出書類で終わった会社。8割近くの人が「その場しのぎの目標」を書いた経験があります。
思想から生まれた制度と、話題づくりで終わった制度。制度の生死を分けるのは、おもしろさではありませんでした。
続いた会社と、形だけ残った会社。分けたのは意識の高さではなく、始める前に用意したものでした。
統合して良くなった地域と、こじれた地域。学校の分岐点と接続する事例です。
辞める理由の多くは人間関係。離職防止プログラムと接続する事例です。
機能した市民会議と、儀式で終わった市民会議。合意形成図鑑と接続する事例です。
いま立っている分岐点から、読む事例を引けます。事例が増えるたびに、この表も育ちます。
| いま立っている分岐点 | 読む事例 | 併せて読む図鑑 |
|---|---|---|
| 商店街・地域の再生を任された | No.001 商店街の立て直し | 合意形成図鑑 |
| 研修の予算を来期も取りたい/効果を問われている | No.002 研修の成功と失敗 | 教育の費用対効果図鑑 |
| 昇進・転職・独立で迷っている | No.003 キャリアの転機 | 生涯キャリア図鑑 |
| 理念やパーパスの策定を任された | No.004 理念の策定 | 合意形成図鑑 |
| 理念が「額縁」になっている/浸透施策を考えている | No.005 理念の浸透 | 世界の対話の技法図鑑 |
| パーパス経営への転換・風土改革の担当になった | No.006 パーパス経営と風土改革 | システム思考図鑑 |
| 評価制度の見直しを任された | No.007 評価制度の改訂 | 1on1の成功と失敗の図鑑 |
| 部門間の連携が悪い/縦割りを何とかしたい | No.008 縦割りの解消 | 合意形成図鑑 |
| 目標管理が形骸化している/OKR導入を検討中 | No.009 目標設定と目標管理 | 1on1の成功と失敗の図鑑 |
| ユニークな制度・福利厚生を検討している | No.010 おもしろ人事制度 | ホモ・サピエンスの知恵図鑑 |
| 1on1を導入した/導入するが、続くか不安がある | No.011 1on1の定着 | 1on1の成功と失敗の図鑑 |
| 1on1が形骸化している/実施率だけが報告されている | No.011 1on1の定着 | 1on1図鑑「形骸化」の逆引き |
他所の成功をそのまま持ち込んでも、たいてい根づきません。土が違うからです。けれど「分岐点で何が働いていたか」は、土が違っても持ち運べます。あなたの現場の分岐点を、一緒に見立てるところから始めます。
このシリーズの紹介と全事例の一覧をまとめたA4一枚もの(PDF)もあります:社内検討用にダウンロード無料・登録不要/出典表記のままご利用ください(CC BY-NC-SA 4.0)
成功事例は、公式サイト・公的資料・書籍など確かめられる出典を各事例ページに明記しています。失敗事例は原則として、複数の実例をもとに再構成した匿名の「典型パターン」です(実在する特定の団体・個人を描いたものではありません)。
本シリーズのテキストは CC BY-NC-SA 4.0(表示・非営利・継承)で公開しています。稟議用要約PDFは、出典表記のまま社内検討・会議資料への添付にご利用いただけます。発行者情報は事実の台帳をご覧ください。