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世界の成功と失敗事例集
No.001【社会】

商店街の立て直し

─ 再開発した街と、アーケードだけ替えた街

分岐した道の先に、灯りのともる商店街とシャッターの通りが分かれて見えるイラスト

全国の商店街が衰退していくなかで、再生した街があります。同じ時期に、同じくらいの費用をかけて、それでも沈んでいった街もあります。ふたつの街を分けたものは、建物でも立地でもありませんでした。

分岐点:建物より先に、地権者の対話に時間を使ったか

この事例の要点をA4一枚にまとめた、社内検討用の要約版(PDF)です。稟議書・企画書・会議資料への添付に、そのままお使いいただけます(無料・登録不要)。

社内検討用に要約版をダウンロード(PDF・A4一枚) 出典表記のままご利用ください(CC BY-NC-SA 4.0)
01

光景 ─ ふたつの航路

成功の航路

高松丸亀町商店街(香川県高松市)

温かな灯りの商店街で、地権者たちが輪になって対話し、金の糸が店々をつなぐイラスト

1988年、開町400年祭。人通りはまだ多く、数字のうえでは衰退の気配すらありませんでした。それでも当時の振興組合理事長は問いました。「この賑わいが、100年続くのか」。

1990年、青年会を中心に再開発委員会が発足。全国の商店街を視察して回り、たどり着いたのは「商店街全体を、ひとつのショッピングセンターと見立てる」構想でした。しかし本当の難所はここからです。商店街の土地は、何十人もの地権者のものだからです。

丸亀町が選んだのは、土地の「所有」と「利用」を分ける道でした。地権者は土地を手放しません。そのかわり、1998年に設立したまちづくり会社(行政出資5%の民間主導)と定期借地権契約を結び、建物はまちづくり会社が所有・運営して、収益を地権者に分配する。テナントの売上に応じて地代が変わる仕組みで、リスクとリターンも分かち合いました。

最初の街区「丸亀町壱番街」が竣工したのは2006年。最初の問いからおよそ18年。その時間の大半は、工事ではなく、地権者どうしの対話と合意づくりに使われています。

出典:高松丸亀町商店街 公式サイト「再開発について」(1988年400年祭/1990年再開発委員会発足/1998年まちづくり会社設立・行政出資5%/所有と利用の分離・変動地代家賃制/2006年壱番街竣工)

失敗の航路

ハード先行のアーケード改修(典型パターン)

シャッターを閉じた灰色の店構えと、途中で途切れた金の糸のイラスト

ある商店街は、補助金の申請期限に合わせて、老朽化したアーケードの架け替えを決めました。「暗くて古いから人が来ない。明るくきれいになれば、人は戻る」──計画は工事の工程表から逆算して進み、地権者や店主への説明会は数回。質問は出ましたが、「もう決まったことですから」で進みました。

竣工式の日は、たしかに人が集まりました。けれど半年もすると、人通りは元の下降線に戻ります。空き店舗の持ち主は、家賃を下げてまで貸すより「そのまま持っておく」ことを選び続け、シャッターは開きません。テナントの顔ぶれも、営業時間も、改修前と何も変わっていないからです。

10年後に残ったのは、立派な屋根と、その下の変わらないシャッター通り、そして修繕費の負担でした。「箱はきれいになったが、商いは変わらなかった」──そんな言葉だけが残ります。

※ この失敗事例は、実在する特定の団体・個人を描いたものではなく、複数の実例をもとに再構成した「典型パターン」です(編集方針:読む前の、三つの約束)。

02

分岐点

建物より先に、
地権者の対話に時間を使ったか。

ふたつの街は、どちらも「ハードに投資」しています。違ったのは順番です。丸亀町は、建物に手を付ける前に、いちばん動かしにくいもの──土地の権利と、それを持つ人たちの気持ち──に十数年をかけました。所有と利用の分離という仕組みは、その対話の中から生まれた「地権者が土地を手放さなくても、街全体を経営できる」ための発明です。

失敗側は、いちばん動かしやすいもの(建物)から着手し、いちばん動かしにくいもの(権利と合意)を後回しにしました。説明会は開かれましたが、それは「決まったことを伝える場」であって、「決めるまえに聴く場」ではありませんでした。アーケードは替えられても、店を貸すかどうかを決めるのは、ひとりひとりの地権者です。そこが動かなければ、街は変わりません。

03

逆引き ─ 働いていた苦手と、効いた知恵

働いていた苦手ホモ・サピエンスの苦手図鑑

  • No.002 損失回避土地を手放す・家賃を下げる痛みは、得られる利益の2倍重く感じられる。空き店舗が動かない正体です。
  • No.003 現状維持バイアス「そのまま持っておく」がいちばん楽な選択肢。仕組みで補わない限り、人はいつもどおりを選びます。
  • No.006 共有地の悲劇商店街全体の賑わいは「みんなのもの」。誰のものでもないものは、誰も自分ごととして手入れしにくいのです。

効いた知恵→ 知恵の図鑑たち

  • 決めるまえに聴く合意形成説明会と対話は別物です。手順と技法は合意形成図鑑へ。
  • 制度で補う(所有と利用の分離)「手放したくない」気持ちと戦わず、手放さなくてよい仕組みを発明する。苦手図鑑の処方箋「制度で補う」の実例です。
  • 長い時間軸で問う「この賑わいが100年続くのか」。目先の通行量ではなく、100年で考えたことが出発点でした。

この事例の要点をA4一枚にまとめた、社内検討用の要約版(PDF)です。稟議書・企画書・会議資料への添付に、そのままお使いいただけます(無料・登録不要)。

社内検討用に要約版をダウンロード(PDF・A4一枚) 出典表記のままご利用ください(CC BY-NC-SA 4.0)
04

処方箋の入口 ─ 同じ分岐点に立つ人へ

  1. あなたの地域で、いちばん「動かしにくい事情」を抱えているのは誰でしょうか。その人たちと、工事の話より先に、どんな対話の場を持てるでしょうか。
  2. いま予定している「説明会」は、決まったことを伝える場でしょうか。それとも、決めるまえに聴く場でしょうか。
  3. 「手放したくない」という気持ちと戦わずにすむ仕組み──所有と利用の分離のような発明──は、あなたの現場では何にあたるでしょうか。

地域や組織の合意形成には、対話の設計と進行の技術が要ります。きづきくみたて工房は、その練習の場をつくっています。

対話力向上プログラムを見る
出典・参考(クリックで開く)

高松丸亀町商店街 公式サイト「再開発について」 https://www.kame3.jp/redevelopment/ (2026年7月閲覧)。年表・事業スキーム(所有と利用の分離、定期借地権、まちづくり会社、オーナー変動地代家賃制)の記述は同ページに基づきます。
失敗事例は、複数の実例をもとに再構成した匿名の典型パターンです。シリーズの編集方針はハブページ「読む前の、三つの約束」をご覧ください。テキストは CC BY-NC-SA 4.0 で公開しています。