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世界の成功と失敗事例集
No.003【個人】

キャリアの転機

─ 降りて幸せになった人と、しがみついて消耗した人

丘を登る本道の途中から、机と木のある野原へおりる小道が分かれるイラスト

昇進の階段は、上り方は教えてくれますが、降り方は教えてくれません。同じように優秀で、同じように働いてきたふたりが、50代で正反対の場所に立つことがあります。分けたのは能力ではなく、ものさしの持ち方でした。

分岐点:評価軸を一本から多本に組み替えられたか

この事例の要点をA4一枚にまとめた、社内検討用の要約版(PDF)です。稟議書・企画書・会議資料への添付に、そのままお使いいただけます(無料・登録不要)。

社内検討用に要約版をダウンロード(PDF・A4一枚) 出典表記のままご利用ください(CC BY-NC-SA 4.0)
01

光景 ─ ふたつの航路

成功の航路

働きながら軸を増やした転身(楠木新さん)

机で書き物をする人から、金の糸が遠くの緑の丘へ伸びていくイラスト

『定年後』(中公新書)がベストセラーになった作家・楠木新さんは、もともと大手生命保険会社の会社員でした。40代後半、こころの不調で休職を経験します。会社の評価という一本のものさしだけで生きてきたことに、そこで向き合うことになりました。

楠木さんが選んだのは、会社を辞める(全部降りる)ことでも、元の競争に戻る(しがみつく)ことでもありませんでした。会社員を続けながら、勤務の外で取材と執筆というもう一つの軸を育てる──いわば「働きながら、降りる準備をする」道です。二足のわらじは十年以上続き、その間に社外の人脈と実績が静かに積み上がりました。

定年で会社を離れたあとは、作家・大学教授として第二のキャリアへ。会社員時代の観察はそのまま著作の題材になり、『定年後』は同世代の必読書と呼ばれるまでになりました。会社の肩書きを失う日は、彼にとって「何者でもなくなる日」ではなく、「次の軸に体重を移す日」でした。

出典:楠木新『定年後 ─ 50歳からの生き方、終わり方』中公新書(2017年)、『こころの定年を乗り越えろ』ほか本人の著書・公開インタビュー(休職の経験と「働きながら書く」転身は、本人が繰り返し公表している経歴です)

失敗の航路

降りられなかった人(典型パターン)

霞の中の高い階段の上に立つ後ろ姿と、途中で途切れた金の糸のイラスト

同期トップで課長になり、部長レースも勝ち抜いた人がいます。役員の椅子が視界に入った50代、この人のものさしは社内の序列、ただ一本でした。家族との時間も、趣味も、社外の付き合いも「上がってから」と後回しにしてきました。

ポストオフの内示は、突然やってきます。肩書きを失った日から、自分が何者なのか分からなくなりました。降格ではないと頭では分かっていても、会議のたびに胸の奥が削れていきます。それでも辞められません。ここまで積み上げたものを手放すのが、どうしても惜しいからです。

気づけば、健康診断の数値と眠りが崩れ、家では会話が続かず、名刺の外に自分を語る言葉がありませんでした。退職の日に残っていたのは、「あんなに頑張ったのに」という言葉だけ。頑張りが足りなかったのではありません。頑張りを測るものさしが、一本しかなかったのです。

※ この失敗事例は、実在する特定の団体・個人を描いたものではなく、複数の実例をもとに再構成した「典型パターン」です(編集方針:読む前の、三つの約束)。

02

分岐点

評価軸を、一本から多本に
組み替えられたか。

「降りる」というと、撤退や敗北に聞こえます。けれどふたつの航路を見比べると、成功の側がしていたのは撤退ではなく、ものさしの組み替えでした。社内の序列という一本の軸に、書く・教える・地域で関わるといった別の軸を足していく。すると、同じ出来事の意味が変わります。ポストオフは「転落」ではなく、「別の軸に時間を移せる日」になります。

大事なのは、組み替えには時間がかかるということです。楠木さんの二足のわらじは、十年以上かけて育ちました。肩書きを失ってから慌てて探すのではなく、まだ登っている途中に、次の軸を小さく育て始める。それが、この分岐点の実務です。

03

逆引き ─ 働いていた苦手と、効いた知恵

働いていた苦手ホモ・サピエンスの苦手図鑑

  • No.009 地位への敏感さ比べることを、やめられない。序列の中での位置が、自分の価値そのものに感じられてしまう仕様です。
  • No.002 損失回避積み上げた地位を手放す痛みは、新しい軸で得られる喜びの2倍重く感じられます。「惜しくて降りられない」の正体です。
  • No.003 現状維持バイアス軸の組み替えは、いつでも「まだ先でいい」ように見えます。転機が来てからでは、時間が足りません。

効いた知恵→ 知恵の図鑑たち

  • 降りる・留まるも道上る以外の道を、最初から地図に載せておく。生涯キャリア図鑑の「よりみちの広場」は、そのための場所です。
  • 心理的成功(プロティアン・キャリア)成功の基準を、昇進ではなく自分の価値観に置き直す。理論の系譜はキャリア理論図鑑へ。
  • 小さく試す(働きながら育てる)辞めてから探すのではなく、在職中に小さく始めて確かめる。その行動量が、次の軸の種になります。

この事例の要点をA4一枚にまとめた、社内検討用の要約版(PDF)です。稟議書・企画書・会議資料への添付に、そのままお使いいただけます(無料・登録不要)。

社内検討用に要約版をダウンロード(PDF・A4一枚) 出典表記のままご利用ください(CC BY-NC-SA 4.0)
04

処方箋の入口 ─ 同じ分岐点に立つ人へ

  1. いまのあなたを測っているものさしを、全部書き出してみてください。何本ありますか。そのうち、会社が無くなっても残るのは何本でしょうか。
  2. 「上がってから」と後回しにしているものは何ですか。それは本当に、上がってからでないとできないことでしょうか。
  3. 今週、社外のものさしに触れる30分をつくれますか。書く・学ぶ・地域で関わる──小ささは問題になりません。

自分のものさしを言葉にして、キャリアの次の一歩を対話で見立てる場をつくっています。

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出典・参考(クリックで開く)

楠木新『定年後 ─ 50歳からの生き方、終わり方』中公新書(2017年)/『こころの定年を乗り越えろ』朝日新書ほか、本人の著書および公開インタビュー。成功の航路の記述は、本人が公表している範囲の経歴に基づきます。
失敗事例は、複数の実例をもとに再構成した匿名の典型パターンです。シリーズの編集方針はハブページ「読む前の、三つの約束」をご覧ください。テキストは CC BY-NC-SA 4.0 で公開しています。あわせて昇給交渉しない計算機も、ものさしを言葉にする道具としてお使いいただけます。