─ 降りて幸せになった人と、しがみついて消耗した人

昇進の階段は、上り方は教えてくれますが、降り方は教えてくれません。同じように優秀で、同じように働いてきたふたりが、50代で正反対の場所に立つことがあります。分けたのは能力ではなく、ものさしの持ち方でした。
分岐点:評価軸を一本から多本に組み替えられたかこの事例の要点をA4一枚にまとめた、社内検討用の要約版(PDF)です。稟議書・企画書・会議資料への添付に、そのままお使いいただけます(無料・登録不要)。
社内検討用に要約版をダウンロード(PDF・A4一枚) 出典表記のままご利用ください(CC BY-NC-SA 4.0)
『定年後』(中公新書)がベストセラーになった作家・楠木新さんは、もともと大手生命保険会社の会社員でした。40代後半、こころの不調で休職を経験します。会社の評価という一本のものさしだけで生きてきたことに、そこで向き合うことになりました。
楠木さんが選んだのは、会社を辞める(全部降りる)ことでも、元の競争に戻る(しがみつく)ことでもありませんでした。会社員を続けながら、勤務の外で取材と執筆というもう一つの軸を育てる──いわば「働きながら、降りる準備をする」道です。二足のわらじは十年以上続き、その間に社外の人脈と実績が静かに積み上がりました。
定年で会社を離れたあとは、作家・大学教授として第二のキャリアへ。会社員時代の観察はそのまま著作の題材になり、『定年後』は同世代の必読書と呼ばれるまでになりました。会社の肩書きを失う日は、彼にとって「何者でもなくなる日」ではなく、「次の軸に体重を移す日」でした。
出典:楠木新『定年後 ─ 50歳からの生き方、終わり方』中公新書(2017年)、『こころの定年を乗り越えろ』ほか本人の著書・公開インタビュー(休職の経験と「働きながら書く」転身は、本人が繰り返し公表している経歴です)

同期トップで課長になり、部長レースも勝ち抜いた人がいます。役員の椅子が視界に入った50代、この人のものさしは社内の序列、ただ一本でした。家族との時間も、趣味も、社外の付き合いも「上がってから」と後回しにしてきました。
ポストオフの内示は、突然やってきます。肩書きを失った日から、自分が何者なのか分からなくなりました。降格ではないと頭では分かっていても、会議のたびに胸の奥が削れていきます。それでも辞められません。ここまで積み上げたものを手放すのが、どうしても惜しいからです。
気づけば、健康診断の数値と眠りが崩れ、家では会話が続かず、名刺の外に自分を語る言葉がありませんでした。退職の日に残っていたのは、「あんなに頑張ったのに」という言葉だけ。頑張りが足りなかったのではありません。頑張りを測るものさしが、一本しかなかったのです。
※ この失敗事例は、実在する特定の団体・個人を描いたものではなく、複数の実例をもとに再構成した「典型パターン」です(編集方針:読む前の、三つの約束)。
評価軸を、一本から多本に
組み替えられたか。
「降りる」というと、撤退や敗北に聞こえます。けれどふたつの航路を見比べると、成功の側がしていたのは撤退ではなく、ものさしの組み替えでした。社内の序列という一本の軸に、書く・教える・地域で関わるといった別の軸を足していく。すると、同じ出来事の意味が変わります。ポストオフは「転落」ではなく、「別の軸に時間を移せる日」になります。
大事なのは、組み替えには時間がかかるということです。楠木さんの二足のわらじは、十年以上かけて育ちました。肩書きを失ってから慌てて探すのではなく、まだ登っている途中に、次の軸を小さく育て始める。それが、この分岐点の実務です。
この事例の要点をA4一枚にまとめた、社内検討用の要約版(PDF)です。稟議書・企画書・会議資料への添付に、そのままお使いいただけます(無料・登録不要)。
社内検討用に要約版をダウンロード(PDF・A4一枚) 出典表記のままご利用ください(CC BY-NC-SA 4.0)自分のものさしを言葉にして、キャリアの次の一歩を対話で見立てる場をつくっています。
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楠木新『定年後 ─ 50歳からの生き方、終わり方』中公新書(2017年)/『こころの定年を乗り越えろ』朝日新書ほか、本人の著書および公開インタビュー。成功の航路の記述は、本人が公表している範囲の経歴に基づきます。
失敗事例は、複数の実例をもとに再構成した匿名の典型パターンです。シリーズの編集方針はハブページ「読む前の、三つの約束」をご覧ください。テキストは CC BY-NC-SA 4.0 で公開しています。あわせて昇給交渉しない計算機も、ものさしを言葉にする道具としてお使いいただけます。